客室をサステナブルでラグジュアリーな空間へ。
リバーリトリート雅樂倶の
「グリーン・リノベーション・プロジェクト」

取材&文:曽我 美穂 Miho Soga(エコライター)

リバーリトリート雅樂倶が「サステナビリティ×ラグジュアリー」をテーマに、客室201号室と202号室の リノベーションをおこないました。その背景にある思いや、実現までの道のり、実際の客室の様子を写真と共に伝えます。

室内

捨てられる運命だった廃棄物にデザインやアイデアを加え、ワクワクのつまった新しい製品を生みだす「アップサイクル」。これは1990年代にヨーロッパで生まれた言葉で、ファッションアイテムを中心に、今、世界中でいろんな製品が生まれています。建築の世界でも、既存の建物に大規模な改修工事を行い、今のライフスタイルに合わせた住宅やマンション、店舗に生まれ変わらせる「リノベーション」が増えています。これは建物のアップサイクルとも言えます。

「グリーン・リノベーション・プロジェクト」が発足

プロジェクト商品イメージ

そんな中、「リバーリトリート雅樂倶」でもリノベーションのアイデアが生まれました。スタッフは、次のように語っています。「これまでも当ホテルではスタッフの気づきを出発点に、色々な角度からサステナブルな取り組みをしてきました。客室には、木や紙と同じく生分解性のあるバイオマス素材でできた歯ブラシやヘアブラシ、富山産の未精製ハチミツを使用したオリジナルオーガニックスキンケア用品を置き、それらの個別容器を廃止することでプラごみの削減に貢献しています。また、レストランでは器からメニューまで地産地消と旬を意識し、山菜や野草、きのこ、ジビエなどの地元食材を積極的に取り入れています」。さりげなく、でもしっかりと。そんなかたちで取り組みを行ってきたので、客室を改装する時も「サステナビリティの要素を取り入れる」という意見が自然に出てきました。サステナブルな素材が増え、それを扱える企業や職人さんが富山県内にいるので「今のタイミングならできるのでは」という思いもあった、とのことです。

そこで、県内で起業し、アップサイクル家具の生産・販売や空間プロデュースをしている株式会社家'sと、空き家のリノベーションなどを手掛けるdot studio一級建築士事務所と共に「グリーン・リノベーション・プロジェクト」が発足しました。

難しかった課題は「ラグジュアリー感」

客室内

設計とデザインの担当者にとって、一番大変だったのはラグジュアリー感の出し方でした。事例を探したものの、かなり少なかったそうです。でも、「少ないからこそやりがいがあるし、広める意味がある」と考え、工夫しながら手探りで進行。努力と工夫が実り、サステナビリティを意識した空間でもラグジュアリーは実現可能だと感じてもらえる「サステナビリティ×ラグジュアリー」を両立させた空間ができあがりました。

随所に工夫が光る客室が完成

■和紙壁と天井

鷲壁と天井イメージ

部屋の壁と天井は、立山町在住の和紙職人・川原 隆邦さんが制作した和紙が貼られています。川原さんは和紙の原料の楮(こうぞ)から栽培し、オリジナリティあふれる作品を創作しています。すべて森からできた自然に還る素材を使い、100年以上前と変わらない手法で作っているところに強く共感したメンバーが声がけし、ご協力いただけることになりました。

和紙イメージ

今回の客室の壁や天井は、楮や稲わらの入れ方、色のグラデーションや素材感、皺などの効果で、和紙の様々な表情が引き出されています。表現のテーマは、自然の生命力。和紙の壁、天井に囲まれた空間に佇むと、まるで森の中にいるような静寂が訪れます。202号室の土を漉き込んである土壁のようにも見える和紙壁の空間は、壁の一部を光が透過。見る人に新鮮な感覚を与えます。

■床材に使う、特注のテラゾータイル

特注のテラゾータイルイメージ

床に使うタイルは、県内在住の陶芸家・釋永 陽さんの制作過程で出た、ごみになる運命だった廃棄物を40cm角のタイルに練り込んだもの。様々な色、形が入った個性的なタイルになりました。デザイン担当者によると「県内にあるオーダーメイドのテラゾータイルを手がけるメーカーさんと一緒に作ったので、近い距離で何度も試作を重ねながら、一緒に作り上げることができた」そうです。

なお、釋永 陽さんが制作したマグカップは客室でも使われています。

マグカップイメージ

■新素材でできたカーペット

新素材カーペット

お客様がくつろぐリビングの床に敷かれるカーペットにも、ストーリーがあります。実は材料として使われている糸は、廃棄される運命だった「漁網」。最先端の技術により高級な質感の新素材に生まれ変わり、カーペットになりました。

■再生ガラスを使った照明

再生ガラスを使った照明

客室には、従来は扱いにくいと言われていた蛍光管からできた再生ガラスを材料にした照明をいくつも配置。神通峡の水面のゆらぎのような光が、幻想的な雰囲気を演出しています。県内在住のガラス作家・佐々木 俊仁さんが手掛けました。 なお、佐々木さんが制作したグラスは、洗面所のグラスなどに採用されています。

佐々木さんが制作したグラス

■アップサイクル家具

客室の家具は、2000年のホテル開業時から使い続けてきた愛着のあるこだわりの家具ばかり。そこで、県内在住の腕の良い職人さんたちに声をかけ、家具を塗り直したり、布を貼り直したりするアップサイクルを行いました。

木のサイドテーブル

新しく置いた木のサイドテーブルは、使い道がなく捨てられる運命にあった県内産の氷見杉を使ったもの。株式会社家’sの得意分野である、県内で回収した古いタンスをアップサイクルして作られたサイドテーブルも制作しました。

■若手デザイナー2人組が手掛けたティッシュカバー

ティッシュカバー

ティッシュカバーは、ヴィンテージ生地から服や雑貨を作る、黒部市発のインテリア・アパレルブランド「WRAP」が手がけました。同ブランドの若手デザイナー2人組が「見たことがない、とてもいい生地!」と感動し、楽しみながら制作したそうです。ホテルで保管していたベッドスプレッドをアップサイクルしているのですが、防水カバーがつけてあるので実用性も高いです。

洗面カウンター

この他にも、県内在住のガラス作家から不要なガラス片を集め「ビールストーン(BEALSTONE)」という施工で仕上げた素材感を楽しめる洗面カウンター、家具の端材を組み合わせた特注家具など、いたるところにサステナブルな工夫があります。
リノベーションをおこなった客室では、ホテル開業時から上質感と心地よさを大切にしてきました。そのために、肌触りや座り心地がいいイタリア製のラグジュアリーブランド家具を選び、メンテナンスをしながら大切に使い続けてきました。 リノベーション後の客室もそのこだわりを引継ぎ、シンプルながら本質的な心地よさを追求した上質な空間になっています。

サステナブルな取り組みを、もっと当たり前に

Trésonnier(トレゾニエ)シェフ

Trésonnier シェフ 田中 逸平

これまでもリバーリトリート雅樂倶では、様々な取り組みをおこなってきました。

ホテル内のレストラン「Trésonnier(トレゾニエ)」では、2020年オープン時から、力強さのある真のおいしさを追求。地産地消を目指し、シェフ自ら近所の里山にある自社農園に通いながら、無農薬・有機栽培で多種多様な野菜を育ててきました。そして、収穫した野菜を新鮮なうちに調理し、コース料理の一皿にしています。それだけでなく、調理の時に出てしまう魚の内臓などの生ごみをコンポストにし肥料として畑に撒くことで、ホテルのまわりに食の循環を作り出しています。

Trésonnier(トレゾニエ)店内

シェフやスタッフが食材を採りに行くときは、採りすぎないように細心の注意を払っています。山菜・きのこ採りの名人である山の師匠に同行し、必要なものを必要な分だけ採取。近隣の河川で獲れるナマズやスッポン、モクズカニも、先を見据え、未来に地元の資源を残すようにしています。

また、ドリンク類も近くで採れた素材を使ったサステナブルでおいしいドリンクをたくさん用意。山で採れる「山ゼリ」を使った郷土茶や、自家製のハーブやゆずを使ったカクテル、数年後を見越して仕込み中のくるみ酒もあります。こうした多彩な取り組みが評価され、Trésonnierは『ミシュランガイド北陸2021特別版』で、持続可能な取り組みに特に熱心な飲食店に与えられるミシュラングリーンスターと掲載されました。

こうなると気になるのが、これからのこと。スタッフは「今はこういったリノベーションやサステナブルな取り組みが先進的だと受け止められますが、これを業界の当たり前にしたい」と語っていました。

泊まった時に「こういうのもありだね」と感じてもらえるような、ラグジュアリー感があるサステナブルな客室は、次の世代への素敵な置き土産になる。そんな予感がします。

(初回記事掲載:2023年4月)